空き家コンサルティングが予期せぬ相続コンサルティングに転換
【時期】
令和7年9月
【分類】
借地権の売買
【場所】
都内S区
【内容】
9月にようやく解決した事例は、コンサルティングの途中で想定外の事態が発生し、解決までに6年の歳月を費やすことになりました。当時50歳のY様から、「2019年に7年前に両親から相続した借地権上の戸建てが空き家になっており、更新の時期が近づいている」という相談がありました。Y様は、システムエンジニアとして長時間労働をこなしており、職場から1時間程度にある郊外のマンションに居住していました。空き家は職場から20分程度の場所のため、仕事が遅くなった際には、宿泊に使用していました。
空き家は元々自身が育った家で築50年以上の旧耐震建物です。建物の相続登記が未了だったため、知り合いの司法書士に依頼して調査したところ、Y様には腹違いの姉がいることが判明しました。Y様には晴天の霹靂でしたが、司法書士の尽力により建物名義をY様に登記することができました。晴れて自身の名義になったY様は、出来ればリフォームして居住したい、もしくは第三者に賃貸したい旨の希望がありました。そこで当方は知り合いのリノベーション会社を手配して、リノベプランを提案しました。
そうこうしているうちに、地主から更新料と新地代の提案がありました。いずれもY様が想定していた金額を大きく上回っていたため、当方が更新料と新地代額を算定し、地主に告知しました。その後、何回か更新料に関してやり取りをしましたが、折り合いがつかず、法定更新となりました。また、建て替えや第三者への譲渡承諾の可否を尋ねたところ、いずれも拒否され、借地権の買い取り(有償返還)を求められました。地主の買い取り希望価格は路線価ベースで計算した金額よりは少し低かったのですが、借地非訟を想定した場合の価格よりは高いことをY様に説明しましたが、決断を下すまでには至らずで、月日が経過していきました。地主から、借地権を返還してほしい旨の連絡がたびたびあり、いつの間にか3年近くが経過しました。
そんなある時、Y氏から癌に罹患した旨の連絡が突然ありました。Y様には妻がいますが子供はいません。腹違いの姉A様と実の弟がいます。Y様に相続が発生した場合には、争族が勃発する可能性があり、遺言を作成した方が良い旨を告げたいと思い、面談を申し込みましたが、体調不良を理由に実現できませんでした。
そして2023年の8月にY氏の妻から電話がありました。7月にY様が亡くなったとのこと。同週の週末にY氏の弟からも連絡がありました。1週間後に妻と弟とY様の自宅マンションで面談をしました。遺言はありませんが、借地権は弟が相続すること(相続後には地主の希望通りに有償返還)で意見が一致し、A様だけが不安材料という認識でした。Y様の親の相続登記を実行した司法書士が再びA様に接触し相続放棄を求めたところ、同意をいただき、懸念材料は払拭されました。この時私は、Y様の遺産分割は容易にまとまり、空き家の処理に移行できると想像していました。
しかし、これは間違いでした。Y様の相続が発生して半年も経たないうちに、妻は姻族関係終了届を提出して配偶者と「死後離婚」する手続きを実行してしまったのです。妻はY氏の遺産を法定相続分通りに相続する意向であり、遺産分割協議の終了前にこうした行為を行ったことに弟は激怒しました。またY様の金融資産を妻が把握できないことが、弟の怒りを増長させました。Y様の手帳には銀行名と金額が記載されていましたが、通帳やキャッシュカードが見当たらないものが複数あります。整理整頓が苦手な妻は、金融資産の全容把握ができずに数か月が経過し、とうとう当方に弁護士を紹介してほしい旨のお願いがありました。弟に対して調停を申し立てたいとのことでしたが、そのためにも金融資産の把握が不可欠です。
知り合いの女性弁護士を紹介し、半年以上を費やして相続財産を調査したところ、銀行口座は18も存在していました。Y様の手帳に記載されていた金額よりも1千万円以上少ない金額となりましたが、弟は調査内容に同意しました。ようやく遺産分割協議がまとまるかと思いきや、弟から仰天する内容の提案がありました。借地権とY様の自宅マンションを妻が相続した後に売却して換金化し、現金を遺産分割してほしいという内容でした。マンションの居住を継続したい妻には到底認められない内容です。当方がマンションの時価を算定し、それと現預金と合計した金額の法定相続分を現金として弟が相続し、借地権を妻が相続して処理後の法定相続分を弟に送金するという内容を提案し、弟から同意を得ました。ようやく遺産分割協議がまとまり、建物の相続登記を完了した後に、地主に連絡をしました。
地主に妻が相続した旨を伝え、借地の有償返還をしたい旨を告げたところ、「当家は借地権を何十年にも亘ってY氏ファミリーに貸しており、ファミリー外の妻が相続したので、買い取り価格は当初より1千万円下げた価格になる」旨の回答がありました。何年間も待たされた恨みつらみと足下を見ての回答だったと推測しますが、遺産分割協議で疲弊した妻が新たな闘いに挑む気力はなく、地主の条件を呑むことになりました。 先月中旬に建物の解体と滅失登記が終了し、地主から妻に振込みがあり、Y様の全口座の解約も終了して、相続に関する清算が終了しました。
Y様の最初の相談から実に6年以上が経過しました。空き家のコンサルティングから相続のコンサルティングに移行するという予期せぬ内容となり、多数の反省点が生まれました。癌に罹患したと聞いた時点で、借地権の処理をすぐにでも行った方が良いと説得すべきだったこと、エンディングノートの活用を勧めるべきだったこと、生前に妻と面談すべきだったこと等が挙げられます。
相続は高齢者だけに発生する出来事ではないことを改めて認識させられた事例でした。