旅行代理店業を営む借地権者の破綻

借地権者が公衆浴場付マンションを建設

M氏は都内某所で旅行代理店業を営むH社を経営していました。
また、M氏の妻の父が都内某所の借地権者で、公衆浴場を経営していました。昭和46年2月に共同住宅付の公衆浴場を建て替えをめぐって、地主から訴訟され、このとき、義父は無担保で2,000万円を借入れし、建物施工後に2,000万円の根抵当権が設定(根抵当権者:T信金)されました。

そして昭和52年11月にH社が債務者となり、 根抵当権(極度額2,000万円)が設定(根抵当権者:T信金)されました。昭和55年5月に極度額が3,000万円に、そして昭和56年10月に極度額が6,000万円に拡大されました。H社の事業資金を確保するために借人金が膨らんでいったのです。

それから数年後の昭和63年某月に義父が死亡しました。相続人はM氏と義母で、妻Eは相続放棄をしました。ときはバブルの初期でした。

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借入金で自社ビルを取得

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そして平成元年8月に新たに根抵当権を設定したのです。極度額は2億4,000万円で、新たに取得した自社ビルが共同担保となりました。時はバブルのピークであり、誰もが借金をして不動産を取得することを当然と考えていました。

それから3年後の平成3年6月に義母が死亡しました。相続人は妻Eで、M氏は相続放棄しました。
借人金の返済に加えて相続税の支払いも発生し、この頃から借入金の返済が滞り気味で、利息のみの返済となりました。

相続税の推定

  • 借地権の評価額 300万円×70%×150坪=3億円
  • 建物の評価額  固定資産税評価額×(1-借家権割合)=1億円
  • 負債      2,000万円
  • 推定相続税   9,000万円

自社ビルを売却

M氏は平成12年某月に、自社ビルを抵当権者であるJ信金の関連会社に売却して借入金の返済に充当し、 公衆浴場付き共同住宅の2階に自宅兼事務所を設置しました。ビルの売却価格は取得価格を下回りましたが、資金繰りの改善のためにはやむを得ないと判断したのです(J信金の勧めもありました)。本業の旅行代理店業はインターネットの出現により、急激に売り上げが減少していきました。資金繰りは改善することなく、平成14年9月にK庫から750万円を借入れ、地主に対して月額地代30万円の減額を申し入れたのです。

破産手続き開始

M氏の懸命な努力もむなしく、平成17年5月某日、H観光、M氏、妻Eの破産手続きが開始されました。
その翌日に東京都が都税の滞納を理由として不動産の差し押えをしましたが、6月1日に破産財団が未払税を支払い解除されました。同年5月某日、8月19日に債務者集会が開催される旨の通知が地主に届きました。そして6月に破産管財人御用達の大手不動産S社から、地主に対して借地権付建物を任意で購入しないかとの打診がありました。地主は当該地の管理を当社に委託していましたが、借地権者であるM氏からの相談はなく、M氏の破産を地主経由で知ることになったしだいです。M氏から破産前に相談を受けていれば、何らかの救済方法があった可能性がありますので、残念で仕方ありません。

債権者との交渉開始

地主は自身の知らない第三者に借地権者が変わることを嫌い、借地権を買い取ることを決断し、当社に査定を依頼しました。建物が古く、リフォーム費用がかさむこと等が想定されたため、5,800万円という価格を査定しました。これに対して地主はS社に対して、購入希望金額を4,800万円と提示しました。しかし交渉の結果6,000万円に値上げをしました。破産管財人を通じて第1抵当権者であるJ信金に交渉しますが不調に終わりました。管財人の配当案をJ信金が拒否したのです。ちなみに、管財人が要求していたコストは500万円であったことが後日判明しました。

J信金がHマンションの買い手を捜し、7,500万円での購入希望者を見つけてきましたが、地主は購入価格の15%に相当する金額の名義変更料を要求しました。
J信金は、任売をあきらめて競売に切り替えました。と同時に、地主に対して購入の有無を打診してきました。J信金のHマンションに対する評価額は6,800万円でした。第2抵当権者であるK庫の判子代は30万円×2名分(H氏とE氏)を予定しました。
同年10月某日、H社、M氏、E氏の破産が確定し、競売開始の通知が届き、破産財団が解散しました。

地主と債権者が売買に合意

11月下旬、J信金がH氏より不動産放棄の事前通知書をとりつけました。当社はJ信金に対して、売買代金配分表を提出し、J信金と地主が売買に関して合意しました。
K庫への判子代をJ信金は60万円(30万円×2名分)と予算化していたため、K庫が要望していた100万円(50万円×2名分)との差額分を当社が負担いたしました。
12月上旬にH氏の弁護士を通じてH氏とコンタクトをとり、司法書士事務所において各種書類(売買契約書類を含む)に署名、捺印をいただきました。H氏、妻Eが破産確定後にも関わらず、売買契約に応じたのは、K庫の連帯保証人が彼らの親戚だったからです。
12月上旬にJ信金において抵当権抹消の処理と競売の取り下げをして、所有権者の名義を地主に移転しました。

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所有権を取得した地主が建物の一部をコンバージョン

当社は地主が建物を取得した後に、すべての入居者と面談し、建物内を調査しました。建物はかなり老朽化していて、屋上の防水工事、エレベーターも補修が必要な状況でした。問題箇所は2階でした。H社及びM氏がフロア全体を使用していましたので、そのままの状態で賃貸することはできませんでした。オフィスや倉庫として貸し出すか、区分して居住用にするのか、はたまた社員寮として一括貸しするか等を検討しました。安定した収入を見込むことを重視して、6室の居住用スペースができるようにコンバージョンしました。コンバージョン費用はかかりましたが、その後、今日に至るまで、部屋が空けば直ぐに次の入居者が埋まるという状態で、地主の収益は大幅に向上しました。

地主のメリット

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M氏の失敗を分析

最後にM氏の失敗を分析してみました。義父の相続とほぼ同時期(バブル期)に、自社ビルを借入金で購入したのが、そもそものつまずきの発端です。義父名義で相続発生前に購入していれば、借入金が負の相続財産として計上され、相続税は軽減できたはずです。
M氏にとってつらかったのはインターネットの登場で旅行代理店業の売上が急激に低下したことでした。以前は修学旅行なども受注できていましたが、大手旅行代理店にとって代わられました。
また、Hマンションの収益性を上げることを無視し、ワンフロアを自宅兼事務所 にぜいたくに使用していたことも、資金繰りの悪化に拍車をかけたのです。
この事例から学べることは多々ありますが、相続税対策として安易に借金をすることは極めて危険であることを特に認識しておくべきだと思います。

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