【時期】
令和8年9月
【分類】
借地権の売買
【場所】
都内S区
【内容】
 昨年の8月初旬に50代の女性K様が相談室を訪問されました。母親が1年前に特別養護老人ホームに入居し、借地権付き建物が空き家になっているとのことです。10数年前にランドマークができたことにより、人気の住宅地となり、最寄り駅から徒歩10分程度と好立地にあります。前面道路も公道で、幅員が約11Mととても条件の良い借地です。敷地は約19坪で2棟の建物がありますが、いずれも築年数不詳の老朽家屋です。そのため、K様は建物の建て替えを検討し、ハウスメーカー2社にプランの作成をお願いしましたが、結局、資金繰りの目途が立たずに売却することを決意したそうです。

 本件のように老朽家屋付の借地権を購入する者は、個人ではなく、戸建てデベロッパーに限定されます。個人では金融機関の融資が受けられないことが主たる理由です。難点は土地が分筆されておらず、借地権が存する筆の面積は500坪を超しており、地主に相続が発生しても底地を取得できない可能性が高いということです。また、直近の2年毎に地代を更新しており、坪単価は1,300円を超していました。K様に「地主が他の借地権の譲渡を承諾した経緯があるか」を尋ねたところ、不明であるとの回答でした。地主は借地権が存する筆の一部に居を構えています。

 面談後に日を置かず、現地を確認いたしました。依頼のあった借地権付建物は、隣地との境に戸があり、閉鎖されていて奥まで行くことができませんでしたが、建物の解体及び新築には問題なしと判断をいたしました。人気の住宅地ゆえ、借地権と言えども購入を希望する戸建てデベロッパーは多数存在するのではないかと想像しました。K様にその旨を伝え、まずは地主に挨拶し、譲渡をしたい旨を告知してほしいとお願いをしました。K様は直ちに地主を訪問したところ、第三者への譲渡を承諾する旨の回答がありました。

 次に当方が地主に連絡をし、面談の運びとなりました。70代後半と思しき男性と40代の男性が応対いたしました。話をしていくと、この種のことを数多く経験しているようで、各種承諾料と新地代に関して後日、メールで回答する旨の約束をいただきました。承諾料は名義変更承諾料(譲渡承諾料)、建替え承諾料、期間更新料がありますが、相場が存在していますので、凡その想定金額を事前にK様に伝えていました。

 しかし、後日、地主から届いた承諾料の金額を見て驚愕いたしました。約19坪の借地にも関わらず、総額で1,000万円を超えており、さらに新地代の坪単価は2,000円です。特に後者は分譲価格に響いてきます。分譲住宅の購入者はローンの支払いに加えて地代を負担しますので、地代が高くなると、分譲住宅の価格を下げざるを得ず、デベロッパーの借地権購入価格を下げることに繋がります。そこで、当社代表が承諾料及び地代に関する意見書を作成し、当方の査定した金額を地主に伝えました。すると、想定外の返事が届きました。「かつて地主がお付き合いをしたことのあるデベロッパーの担当者に、承諾料や地代の妥当性を検証してもらいたいと思うので、良いか」という内容でした。その担当者Y氏は、たまたま当方の知り合いでした。地主からY氏に連絡をし、その後、当方からY氏に連絡をしました。Y氏は大変驚きましたが、地主から指名を受けたことに、ある種のやりがいを得たようにも感じ取れました。しかし、数週間を経た後の回答は、「当社は地主から提示された承諾料や地代に関して意見を述べる立場になく、地主から提示された地代等の条件で分譲が可能かを判断するだけです」という内容でした。新たな条件に基づいてY氏から、当該借地権の買い取り価格を算定してもらい、それに基づいて地主に再度、条件を提示してもらいました。

 後日、2パターンの新提案が届きました。新地代を坪単価2,000円にした場合には承諾料合計額を300万円値引きするというパターンと、新地代を現地代から800円増額した額とし、承諾料合計額を値引きせずというパータンです。承諾料合計額は売主が負担しますので、K様には前者のほうが好ましい条件となります。再度、Y氏に検討をしていただき、買い取り価格を提示してもらいました。その価格はK様が納得する価格となり、本年1月末に、Y氏の会社とK様の母親とで停止条件(地主の譲渡承諾及び建築確認済証の交付を停止条件)付の売買契約を締結しました。

 Y氏は地主指定の会社の担当者であるため、譲渡承諾書は1か月程度で取得できました。その後、土地の測量を実施する運びとなりました。借地境1件、所有権境1件、地主との境界1件と相手は3件となりますので、さほど時間はかからないと思われました。測量会社はY氏の会社が手配するため、当方と面識はなく、また測量会社と地主とが直接のやり取りを行ったため、進捗状況がわからず、数か月が経過しました。その後6月になり、突如、Y氏から連絡があり、地主が手配した測量会社の元で、境界の立ち会いの打診がありました。平日だったため、K様は参加できず、当方が代理で立ち会いを行いました。測量会社の担当者の説明が明解で、スムーズに終了しました。後日、関係者が境界確認書に署名捺印をし、残すは西側隣接者との間に存する扉を解体することの了解(越境の覚書の締結)のみとなりました。当方が西側隣接者にお願いしたところ、何ら問題なく、協力をしていただけました。K様にその旨を伝えたところ、隣地の方々との関係は従前から良好だったとの報告をいただきました。8月のお盆前には全書類を取得することができました。

 建築基準法の改正により、建物の建築確認申請の審査期間が以前よりも長くなり、2か月程度かかるそうです。そのため、Y氏の会社の確認申請がおりる予定が9月20日頃となりました。並行してK様の母親と司法書士との面談を勧めました。場所は特別養護老人ホームではなく、ロードサイドのカフェとなりました。K様は母親を抱きかかえるようにして店に到着しました。母親は80代後半ですが、椅子に座ると、当方と目線をきちんとあわせてくれました。司法書士の説明も理解され、名前の署名となりました。久々に文字を書いたためか、何度も書き直しをすることになりましたが、無事に終わりました。K様によると、誤嚥性肺炎となって入院した後に現在の老人ホームに入居されたとのこと。そのため、面談中に咳が何度か出ましたが、コーヒーを飲み干す元気はありました。司法書士との面談が終了して10日後に決済となりました。当方は決済前に、地主を訪問し、地代の清算金を受け取りましたが、そこには借地権者への感謝のお手紙が添えられていました。地代や承諾料は決して安くはありませんでしたが、心遣いのある立派な地主であることを知り、当方も感激いたしました。予定よりも3か月超過の引渡しとなりましたが、K様より感謝の言葉をいただき、当方も肩の荷がおりました。最後にK様に当方を指名された経緯をおうかがいすると、AIの推奨だったそうです。AIを裏切らずに済み、処理が出来たことで、AIからもお褒めの言葉を頂戴した感じがいたします(笑い)。