渋る地主を説得し、借地権譲渡の慣例のない地域で借地権譲渡に成功

【時期】
令和6年1月
【分類】
借地権の売買
【場所】
千葉県某市
【内容】
 一昨年の夏に知り合いの税理士から連絡がありました。親戚が亡くなり、使用しなくなった借地権上の空き家があるので、相談に乗って欲しいとのことでした。
 空き家の概況は以下の通りです。
・場所:千葉県のJR武蔵野線の最寄り駅から徒歩10分程度の住宅街
・接道:幅員4.0Mの私道(地主)に間口10Mで接道
・広さ:敷地面積が約35坪で、戸建て住宅の床面積は約31坪の5DK
・建物の築年数:昭和58年築(築39年)
 一人暮らしの母親が亡くなり、半年程度が経過していました。相続人は、長男(亡)の代襲相続人(3人の子供)、次男、長女の5人です。同じ市内に住む長女M様が窓口となりました。5名の相続人は全員が自宅を保有しており、空き家に居住する意向はありません。また賃貸住宅として運用する意思もありません。従って、空き家を換金化することで相続人の意向が固まりました。
 空き家が存する借地権は旧法借地権で、契約期間の満了時期が半年後に迫っていました。
地主は自身が保有する数百メートルに及ぶ私道に面した土地(底地)を所有している大地主です。M様が、母親が亡くなったことを地主に報告すると、「建物を使わないのであれば、借地権を無償で返還してほしい。建物をリフォームして賃貸に出す」という回答がありました。M様が周囲の借地権者から聞いた話では、空き家になった場合には、更地にして返還するか、建物付きで返還するかになっており、地主が借地権を買い取ったり、第三者に譲渡したりする事例は皆無とのことです。

 東京23区内は借地権が流通するのは自然(とは言うものの流通期間は所有権の数倍かかります)ですが、千葉県の某市ではまれに見る現象のようです。大苦戦が予想されましたが、前進あるのみで流通させることをトライしました。相続人全員より委任状を取得し、地主へ面談の挨拶状を送付しました。すると、土地の管理者から連絡がありました。地元の不動産会社H社で、自らが分譲をも手掛けており、地主との付き合いは長そうです。
 後日、担当者と面談する運びとなりました。「地主は当該地一帯を土地賃貸等している大地主であり、これまで借地人(権者)には、使用をしなくなれば、建物を収去して返還してもらっている。地主は借地権の価値はないと考えているので、例外なく同様の対応を迫られる」との話をしました。

 当方は今までの経験に基づいた借地権流通の話をし、地主に譲渡承諾及び建て替え承諾をしていただけるようにお願いをしました。当該建物は築39年を経過していますが、5DKと広々としており、陽当たりも良好でした。新耐震住宅でもあり、多少の補修をすれば十分に賃貸は可能と思えました。当方の知り合いで外国人向けの留学生の寮を運営している会社があり、現地を視察してもらいました。すると借り受け可能との回答があり、H社を通じて地主に外国人学生の寮としての利用の可否を打診したところ、NOの回答がありました。
 次に現れた買い手候補は、障碍者向けのグループホームを運営するNPO法人に賃貸を考えている投資家です。地元在住者ですでに実績もあるようです。再びH社を通じて地主に可否を打診したところ、またしてもNOの回答となりました。

 借地非訟を利用して裁判所の許可を取る方法もありますが、費用と期間がかかることからM様は他の買い手候補を待つことを選択しました。地主は自宅として戸建て住宅を利用する者が購入することを望んでいます。借地上に建つ築39年の住宅を自宅にする方を見つけるのは至難の業であり、買い手が現れるまで地代の支払いが継続することから、早期決着を目指して新築住宅を供給する戸建てデベロッパーへの売却を検討しました。
 当方と縁のあるデベロッパーに購入を打診してみましたが、千葉県での借地権付き住宅の供給の経験がないとの回答で、なかなか買い手候補を見つけられませんでした。ようやく1社が見つかりました。三度目の正直を目指して地主に打診をしたところ、首を縦に振ってもらいました。
 安堵したのもつかの間で、当該地が埋蔵包蔵地に該当することが判明し、建物解体後に市役所による調査が行われ、包蔵物は何もないことが確認されました。売買契約から決済まで4か月以上が経過し、本年1月にようやく決済となりました。相談をいただいてから処理が完了するまで、実に1年半以上の月日を要しました。既存の家を残すことはできませんでしたが、換金化することはできました。本借地権はこの地主が第三者への譲渡を認めた借地権の第一号となりました。
 余談になりますが、建築に着手する前に、戸建て住宅の買い手が見つかったとの報告をデベロッパーの担当者から受けました。借地権の供給数が少ないエリアでも、新築住宅の需要があることを知りました。
 本件は土地を管理するH社の担当者にきめ細かく対応していただいたことも、処理できた要因でした。地主とのコミュニケーションも重要ですが、管理者とのそれも同様に大切であることを痛感した事例でした。

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